『ビール通りとジン横丁(Beer Street and Gin Lane)』

ジンは、19世紀以前は「不道徳な酒」「労働者の酒」という、悪いイメージがあったスピリッツです。
18世紀イギリスの画家ウィリアム・ホガース(William Hogarth)は、1751年に『ビール通りとジン横丁(Beer Street and Gin Lane)』という2枚組の版画作品で、ビールを「健康的」とジンを「不道徳的」という視点で描き出しています。
それぞれの絵の下部には、詩が加えられています。以下に、それぞれの絵と詩、そして詩の和訳(訳:Novo Weimar、本サイト管理者)を掲載します。なお、翻訳と詩の解釈は、私の独自研究によるものです。学問的な裏付けがあるものではありませんので、ご留意ください。
『ビール通りとジン横丁 ジン横町(Gin Lane, from Beer Street and Gin Lane)』
William Hogarth - Gin Lane
Gin, cursed Fiend, with Fury fraught,
Makes human Race a Prey.
It enters by a deadly Draught
And steals our Life away.

Virtue and Truth, driv'n to Despair
Its Rage compells to fly,
But cherishes with hellish Care
Theft, Murder, Perjury.

Damned Cup! that on the Vitals preys
That liquid Fire contains,
Which Madness to the heart conveys,
And rolls it thro' the Veins.

ジン 悪霊に呪われ 狂気に満ち
人類を 餌食となす
誘う 致命的な たった一口
奪い去る 人生を

美徳 真実 それも 絶望へ
ジンは強烈 飛んでしまう
でも それは 邪悪の誘い
窃盗 殺人 嘘つき

悪夢の1杯! それで 致命的な 餌食
その液体には 炎が宿る
狂気は 心臓に達する
そして 血脈となり 流れる
『ビール通りとジン横丁 ビール通り(Beer Street, from Beer Street and Gin Lane)』
William Hogarth - Beer Street
Beer, happy Produce of our Isle
Can sinewy Strength impart,
And wearied with Fatigue and Toil
Can cheer each manly Heart.

Labour and Art upheld by Thee
Successfully advance,
We quaff Thy balmy Juice with Glee
And Water leave to France.

Genius of Health, thy grateful Taste
Rivals the Cup of Jove,
And warms each English generous Breast
With Liberty and Love!


ビール 素晴らしき産物 我らの島の
強健な 力強さを 与えてくれる
疲れていても 疲労も 苦労も
勇気づける 男の心を

労働も 芸術も 支えるのは 汝
うまく 前に進んで行ける
がぶ飲みする 香り高い液を 歓喜とともに
*フランスは 水で 十分だ

健康の天才 すばらしき味
匹敵する **ユーピテルの聖杯に
温める 英国人の 寛大な心を
自由と 愛によって
注*
「フランスは 水で 十分だ」というのは、イギリスが百年戦争等で歴史的にフランスと仲が悪かったことなどを踏まえ、フランス人を揶揄した表現だと思われます。

注**
「ユーピテル(Jove=Jupiter)」は、ローマ神話の主神で守護神として扱われているため、上記「フランスは 水で 十分だ」という愛国的な表現を踏まえ、「守護神の聖杯にビールが匹敵する」という表現をしたものと思われます。